ベテラン釣師とニシン

南防波堤の外側で釣れた小型のニシン
酒とみりんと醤油と生姜で、、

いつもの場所で糸をたらすと、この日も15cm前後のアブラコが釣れた。しゃがんで、釣れた魚を針から外していると、上から、

「お、アブラコちゃんですな」

と声がした。見上げると、いかにも凄そうなベテラン風の紳士だった。

「こんにちは」
「はい、こんにちは。今日は、サバ、釣れてるかい?」
「サ、サバですか、、、えーと、あの、わかりません」

しどろもどろの僕にはかまわず、ニコニコしながら隣にどっしりと腰を下ろすと、竿と仕掛けの準備を始めた。実に手際が良い。

「いまな、ここらへんでサバが釣れてるのさ。昨日も来て結構釣れたんだ。エサ撒けばすぐ寄ってくるよ、見ててごらん。」

外海にオキアミをぱっと撒いた後、同じエサを入れたコマセネットとサビキの付いた糸を降ろす。程なく、言ったとおりに魚が寄ってきて、すごい勢いで釣り始めた。10~20cmくらいのサバ。2連、3連は当たり前だ。

「す、すごいっすね、、、」
「はっはっは。あんたもやってみるといい。ほれ」

そう言って新品のサビキを手渡そうとした。なんて気前の良い人なんだろう。

「あ、いえ、サビキなら僕もチカ釣りのを持っているので大丈夫です。ただ、今日はオキアミを持ってきてないんですが、エサなしでも釣れるでしょうか?」
「ああ、エサが撒いてあれば釣れるよ。そしたら、ほーれ」

と、僕が立っている前の海にもアミエサを放ってくれた。大急ぎでチカ釣り用のサビキを出し、ブラーと付け替えて、エサが撒かれたあたりに糸を降ろしてみた。半信半疑だったが、すぐに、ぐぐんと竿先が動き、引き上げてみると12~3cmのサバが食いついていた。すげぇ、、

「な、釣れるべ? ほーれ、ほれ、ほれ、ほーれ」

さらにアミのマキエを打ちまくり、止まることなく釣り続ける。あっという間に、この釣師のビニール袋は魚でいっぱいになった。手際が悪い自分も、おこぼれのマキエに寄ってきた魚をさらに何匹か釣り上げることができた。気づくと釣師の周りにちょっとした人だかりができていた。集まってきた人の話で、僕が釣った魚はニシンの子供だとわかった。醤油と酒とみりんでじっくり煮ると骨まで美味しく食べられるらしい。

「さて、今晩のおかずはこれで十分。では、私はこのへんで」

釣師はそう言うと手際よく道具をしまい、さっさと帰ってしまった。来るのも、道具を出すのも、釣るのも、しまうのも、帰るのも実にスピーディー。まさにベテランの技を見た気がした。

釣った魚は教えてもらったとおり、醤油と酒とみりん、あと生姜とネギを加えて煮込んでみた。
酒の肴にぴったり。骨まで美味しくいただいた。